平成28年度海外教育連携教員派遣報告
市川 明 助教 (リスボン新大学?化学生物技術研究所)

所属 応用生物学系
氏名?職名 市川 明 助教
期間 平成28年4月10日~平成29年3月26日
滞在先 ポルトガル リスボン新大学?化学生物学技術研究所

はじめに

 ポルトガル共和国は、ユーラシア大陸最西端イベリア半島に位置する国家であり、ヨーロッパで最初に日本との接触を持った国です。首都のリスボンは、イベリア半島の西側、テージョ川の河畔に位置しています。「7つの丘の街」と呼ばれるこの街は起伏に富んでおり、市街地の歩道のほとんどが石畳で統一感ある街並みと相まって、美しい景観を醸しています。私は、2016年4月から2017年3月までの予定でリスボン新大学(Universidade Nova de Lisboa)の化学生物学技術研究所(Instituto de Tecnologia Quimica e Biologia Antonio Xavier)に滞在しています。

ITQBの外観

リスボン新大学

 私の受け入れ先のリスボン新大学は、リスボンにある3つの公立大学の中では最も新しい大学で、1973年に創立されました。5学部、3研究所、1スクールを擁する学生数19,867人、教員数1,591人、スタッフ数679人の比較的大規模な大学ですが、キャンパスが複数に分散していることもあり、それほどの実感はありません。ポルトガルの高等教育は学部に相当する1stサイクル(3年間)、修士課程に相当する2ndサイクル(2年間)、博士課程に相当する3rdサイクル(4年間)に分けられています。リスボン新大学全体で1stサイクル(Bachelor)25コース、2ndサイクル(Masters)103コース、1st & 2ndサイクル(Integrated Masters)12コース、3rdサイクル(Doctorate)79コースと多様なコースが用意されています。

 

化学生物学技術研究所

 私は、リスボン市内から少し離れたオエイラス(Oeiras)という町にあるリスボン新大学の付属研究所である化学生物学技術研究所(ITQB:Instituto de Tecnologia Quimica e Biologia Antonio Xavier)にお世話になっています。ITQBは民間の非営利機関である生物学実験技術研究所(iBET:Instituto de Biologia Experimental e Tecnologia)と一体となり研究?教育を行っています。ITQBには1stサイクルのコースはなく2ndサイクルの4コース、3rdサイクルの5コース、及び1stサイクル、2ndサイクル修了者の科学研究トレーニングを行っています。ITQBには化学、生化学、生物学、植物科学、テクノロジーの5分野にわたる56のラボがあり、約400名(研究者69名、ポスドク77名、PhD学生135名、MSc学生50名、含む)の研究者が所属しています。そのうち外国人は、32名(ポスドク18名、PhD学生11名、MSc学生3名)と低い割合にとどまっています。また、ITQBに来て驚いたことは、女性研究者の多いことです。聞くところによるとポルトガルは女性研究者の割合が世界一だそうです。博士課程の学生の6割超が女性であるとのことでした。

 

動物細胞工学部門

 私は、iBET/ITQBの動物細胞工学部門(Animal Cell Technology Unit)の研究?教育活動を中心に学んでいます。動物細胞工学部門はiBET/ITQBで中心的な役割を果たしていて、研究スタッフ(教員)、学生合わせて60人ほどの大きな研究室です。ユニットリーダーを含む6名のラボヘッドのうち5名が女性で、その下のシニアサイエンティストも7名中5名が女性でした。動物細胞工学部門の教員、学生ともにiBETとITQB両方に所属する形をとり、ほとんどの学生はiBETでのポルトガル国内外の企業、研究機関との共同プロジェクト携わりながら、ITQBの教育プログラムで学んでいます。動物細胞工学部門の主な研究活動は、細胞株、組換えタンパク質、ウイルスワクチン、遺伝子治療のためのウイルスベクターなどのバイオ医薬品製造プロセスの開発、細胞治療のための幹細胞培養技術開発、前臨床研究のためのインビトロモデル開発などです。どれも実際的な技術開発が中心ですが、開発の中で見出された基礎研究的な事象にも目を向け、学会発表、論文発表へ繋げる姿勢が見られました。動物細胞工学部門では、全体でのラボミーティングが週に1回開催され、学生が順番で研究成果を発表しています。また、ユニットリーダーまたはシニアサイエンティストを中心としたプロジェクトごとのミーティングも頻繁に行われており、学生たちは他のメンバーとディスカッションをしながらプロジェクト研究に取り組んでいます。

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ACTU ラボミーティングの様子

リスボンでの生活

 私は、リスボン旧市街のアルファマ地区にキッチン付きのアパートを借りて、研究所のあるオエイラスまで、毎日、バスと電車を乗り継いで約1時間かけて通勤しています。アルファマ地区は1755年のリスボン大震災の被害を免れた地域で、狭い路地、曲がりくねった階段、洗濯物が干された建物の間を縫うように走る路面電車など、リスボンの下町の雰囲気が色濃く残っています。近くの港には毎日のように巨大なショッピングセンターのような豪華客船がやってきて多勢の観光客を吐き出しています。ポルトガルは他のヨーロッパ諸国に比べ物価(特に食料品)が安く、新鮮な野菜や果物、肉類が驚くような値段で売られています。外食も安くて美味しいのですが、スーパーで食材を購入し、毎日自炊を楽しんでいます。

おわりに

今回、貴重な海外派遣の機会を与えていただいた、スーパーグローバル大学創成支援事業担当者にお礼申し上げます。
 また、不在中の業務等でご支援いただいている応用生物学系の先生方にも感謝いたします。